認知の歪みと不登校・ひきこもり④〔感情的なきめつけ〕
管理者用不登校・ひきこもりの原因と認知の歪み
前回のブログ(不登校支援ブログ:認知の歪みと不登校・ひきこもり③)で触れましたが、自己否定的な中核的信念(コア・ビリーフ)がある場合、「過度の一般化」「心のフィルター」「マイナス化思考」「結論の飛躍」「感情的決めつけ」などの、自動思考における認知の歪みが生じてしまう可能性が増大してきます。
こうした認知の歪みが生じている場合、たった一度の失敗・挫折、あるいは嫌なことがあれば、そのことばかりに目が行き、他の体験には一切目が向けられなくなります。
先輩や同級生に言われた一言、あるいは教師に言われた一言によって、「誰とも口をききたくない」「友だちや先輩は誰も信用できない」「先生は誰も自分の味方になってくれない」という感情が生まれ、こうしたネガティブな感情が肥大化することがきかっけとなり、不登校やひきこもりの原因になることもありえます。
《参考文献》
・『はじめての認知療法』(大野裕 著,講談社)
・『新世代の認知行動療法』(熊野宏昭 著,日本評論社)
「拡大解釈(過大評価)と過小評価」という認知の歪み
ネガティブな出来事を過大評価し、ポジティブな出来事を過小評価するという思考パターンも、認知の歪みの代表的な思考パターンの一つです。
「こんなことも知らないの?この前、授業で説明したよね?」と教師に言われた場合に、「どうせ自分は何も覚えられない。一度も先生にほめられたことがない。落ちこぼれのダメ人間だ。」と、極端に低い自己評価をしてしまいがちで、この結果、不登校になり、外にも出られなくなるということは決して少なくはありません。
これまで接してきた不登校の生徒は多くの場合、教師や同級生に言われたたった一言の言葉を極端にネガティブに過大に解釈し、他のポジティブな出来事をほとんどゼロに近い状態で過小に解釈している印象があります。
つまり不登校やひきこもりに陥っている生徒では、様々な出来事の中での濃淡のつけ方やクローズアップの仕方に、特有の偏向した思考パターンを見出すことができるのです。
《参考文献》
・『60のケースから学ぶ認知行動療法』(坂野雄二 監修,北大路書房)
因果関係・判断根拠を無視した「感情的な決めつけ」
「こんなことも知らないの?この前、授業で説明したよね?」という一言が、そもそも相手を全否定する意図で発せられたのかどうか、一度、その因果関係について考えてみる必要があるでしょうし、その場面以外での出来事についても思い返してみる必要があるでしょう。
また、すでに不登校・ひきこもりの状態が常態化してしまっている児童・生徒のケースをもとに具体的に考えてみましょう。
昼過ぎに目を覚ました場合、次のような自動思考が生じたとします。「こんなに体がだるくて、気持が落ち込んでいるのは、何もかもがうまくいっていない証拠だ。こんな状態が続けば、どうせよくなるわけがない。だからこれからもずっとこのままなんだろう。」。そして結局、その児童・生徒は無為にその一日をやり過ごしてしまうことになります。こうしたケースでは、次の日、またその次の日も同じことを延々と繰り返していくという自動思考パターンの悪循環に陥っていることが多々あります。
不登校・ひきこもりが長期化していく典型的なパターンだといえるでしょう。
このような場合でも、因果関係をもう一度問い直してみるべきでしょうし、症状を改善するにはこうした自動思考に対して自ら反論することから始めるしかないのです。
《参考文献》
・『やまらかい考え方でストレスコントロール ひとりでできる認知行動療法の応用』(高橋清久 著,フェイスメック)
感情的な決めつけに反論し抑うつ気分を相対化する
起きたばかりの時点において、体がだるくて気持が沈みこんでいて、何もやる気が起きないとして、そのことを原因・理由にして「この先もずっとこのままだ。」と考えてしまうのは、因果律を無視して感情的な決めつけを行っているに過ぎません。
ここで重要なのは、何もやる気にならず、だるくて空しい気分になっているのは、あくまで現時点での「気分」に過ぎず、それは一時的・瞬間的なものであるということです。こうした抑うつの気分を相対化していくことは、感情的なきめつけを退けていく上で非常に大切なことです。
現時点で、こうした抑うつ気分が生じているとしても、それがこのままこの先も永久に続くという理由・原因にはなりません。「これから先もずっとこのままの状態が続く」と決めつけるのは、感情に基づく単なる決めつけに過ぎず、何の根拠もありません。
《参考文献》
・『認知行動療法のすべてがわかる本』(清水栄司 監修,講談社)
認知の歪みをパターン化し、その都度自動思考に反論する
気分を相対化、実体化することで、ネガティブな自動思考にひとつひとつ反論していくことは、認知の歪みを修正していくうえで不可欠なことです。
また、不登校・ひきこもりが常態化しているようなら、こうした認知の歪みの代表的なパターンをそのまま覚えてしまってかまいませんし、ネガティブな自動思考が生じた際に、それに対する反論を丁寧に行っていくことを習慣にしていった方がいいでしょう。
不登校やひきこもりの生徒は、自らの思考パターンを理解していないために、それらに行動や感情を縛られて身動きが取れなくなっているのだということを、この際しっかりと理解してほしいと思います。自分の気分の生じ方や思考パターンについては、自覚的にならない限り、知りえることはできないのです。
《参考文献》
・『図解 やさしくわかる認知行動療法』(福井至/貝谷久宣 監修,ナツメ社)
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