不登校・ひきこもりと不安障害について⑦〔社会(社交)不安障害とうつ病〕
管理者用社会(社交)不安障害〔SAD〕とうつ病
これまでのブログでも述べてきたように、社会(社交)不安障害〔SAD〕は初期治療を行えば、治療可能な病気ですが、病気ではなく性格だと思って放置したり、不安や恐怖を無理に克服させようとしたりすると、うつ病などの他の精神疾患を併発する可能性があります。複数の精神疾患になった場合、完治は困難になります。
うつ病の簡易的なチェック方法としては、厚生労働省の「みんなのメンタルヘルス」によれば、次の10項目があります。
①気分が重い
②何をしても楽しくない
③何にも興味が湧かない
④疲れているのに眠れない
⑤一日中眠い
⑥いらいらする
⑦落ち着かない
⑧自分には価値がない
⑨思考力が落ちる
⑩死にたくなる
①~⑩のいくつかが2週間以上続く場合、うつ病の可能性があります。
うつ病自体の発症の割合は、12歳から急激に増加し、16歳では成人と同じ割合になるとされていて、不登校・ひきこもりのピーク時とも重なる部分がありますので、注意が必要です。
【参考文献】
・『学校関係者のためのDSM-5』(高橋祥友 監訳,医学書院)
・『DSM-5セレクションズ 抑うつ障害群』(高橋三郎 監訳,医学書院)
うつ病の特性である抑うつ気分について
SADになる生徒の多くは、もともと勤勉で真面目な性格であることが多いと言われています。しかし、学校・塾など人前に出ることに不安や恐怖を感じるようになり、回避行動をとるようになるため、自らの能力を発揮する場を結果的に失っていくことになります。
生徒によっては、学校や教室だけでなく、電車にも乗れなくなり、模擬試験などの会場にも行けなくなったりするため、高校受験や大学受験をあきらめざるを得なくなることもありますし、全日制や定時制の高校から通信制高校への転学・転籍を余儀なくされることもあります。
この結果、「自分はダメ人間だ」という自己否定的な感情が強化され、うつ病を発症しやすい状態が形成されていくことになります。
もともと真面目で、完璧を求めて過剰に頑張っている生徒の場合、少しのミスでも自責の念に駆られやすく、その意味では、SADになりやすい生徒は、うつ病との親和性も高いと言えます。
うつ病の抑うつ気分は、否定的・悲観的であるという特性があり、「自分への否定」「世界(社会)への否定」「将来への否定」という三つの否定によって特徴づけられています。この中でも、「将来への否定」は「この先いいことなんてない」といった否定的認知は、抑うつ症状の直接的な原因になります。
【参考文献】
・『子どもの心の診療シリーズ4 子どもの不安障害と抑うつ』(松本英夫/傳田健三 責任編集,中山書店)
・『子どものうつ ハンドブック』(奥山眞紀子 他著,診断と治療社)
自分も他人も将来も信じられなくなる
感情面では、過去のミスに対して喪失感を抱き、その結果、自分の将来が信じられなくなり、抑うつ症状に支配されていくことになります。また行動面では、活動範囲も狭まり、それまでやっていた趣味にも手がつかなくなります。完璧を求めるあまり、何をやっていても楽しむことができず、やがて何もしなくなります。
ここで、うつ病の典型的な症状について、箇条書きでまとめてみたいと思います。
【感情面】悲しみ、いらだち、怒り、自責の念、緊張
【行動面】ひきこもり、無趣味になる、未経験のこと・新しいことに手をつけられない
【身体面】不眠、疲労、食欲減退
【認知面】自己批判、絶望、自殺願望、注意障害、ネガティブな思考
これらをご覧になって、不登校やひきこもりに陥っている人の中には、思い当たる節があると感じられる人も少なくないのではないでしょうか。
うつ病になると、抑うつ症状など気分の変調とともに、上記のような身体面や行動面での変調も来たすようになり、活動が制限されるようになっていくのです。このため、ひきこもり状態の慢性化が起きてくる危険性も増大します。
SADを発症したあと放置したり、無理に我慢したりしていると、うつ病を併発して非常に治りにくい状態になります。
【参考文献】
・『図解 やさしくわかる うつ病の症状と治療』(野村総一郎 監修,ナツメ社)
・『社会不安障害のすべてがわかる本』(貝谷久宣 監修,講談社)
SADは治療可能な病気
SADは早期治療によって治療可能な病気です。このことに関しては、SADを発症している生徒に伝えるべきだと思いますし、うつ病を併発する前に治療していくことの大切さも認識しておく必要があります。
医師の指示を守って適切な治療を受け続ければ、SADは完治する病気であるといわれており、その後に成功体験を重ねていけば、再発の可能性はゼロに近いと言われています。
医師の適切な治療を受けて完治した場合、学校生活などの場面において人前で成功体験を積むことで、不安や恐怖を感じなくなります。成功体験を重ね、自分自身に小さなイエス=肯定を重ねていくことで、SAD発症時には回避行動の原因になっていた不安が薄まり、「うまくいった!」という記憶が脳に残っていくことになります。
ところで、医師の治療を受けていく過程で効果が現れ、症状が改善して不安や恐怖が軽減して気分が楽になることがありますが、このような状態になったからと言って、医師の指示を無視して治療を勝手にやめたりしないようにしてください。
注意すべきことは、自分で勝手に判断せず、かならず医師の指示に従うこと、そして医師がいいというまで最後まで治療を受けるということです。完治していない状態で治療を中断してしまうと、症状が再発することがありますので、くれぐれも自分勝手に判断をしないようにしてください。
【参考文献】
・『社交不安症がよくわかる本』(貝谷久宣 監修,講談社)
・『図解 やさしくわかる社会不安障害』(山田和夫 監修,ナツメ社)
そして前回のブログでも述べましたが、事前に医師や臨床心理士に相談して、病気に関する知識や治療法についての適切な心理教育を受けていただくことも大切なことです。⇒【にしおぎ学院:不登校支援ブログ】不登校・ひきこもりと不安障害⑥
◆【にしおぎ学院:不登校支援ブログ】不登校・ひきこもりと不安障害について①~⑦まとめ
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