うつ病と不登校・ひきこもり⑪(うつ病と自殺について②)
管理者用
自殺する子どもたちの現状
前回のブログ(うつ病と不登校・ひきこもり⑩)で触れましたが、年間自殺者の数は3万人程度で推移しており、その中でも統合失調症やうつ病を原因とする自殺者の割合が高いとされています。
2006年に自殺対策基本法が成立し、自殺予防は地域社会全体で取り組むべき課題であるとされましたが、2009年2月の警視庁の発表では、、平成20年の全国の自殺者は32,194人となっています。
一方、厚生労働省の人口動態統計年報によれば、平成18年が29,921人、翌平成19年が30,824人で、増加傾向にあります。
思春期の自殺は、有名人の自殺に追随するなど、大人の自殺とは別の要因もありますが、未成年の自殺は全体の約2パーセントで推移しているとされています。
いじめが原因での自殺はあとを絶たず、現在でもメディア報道で取り上げられなくなることはありません。しかしメディアは、結果のみの報道に終始し、自殺の真因から自殺企図に至るまでのプロセスについての詳細かつ分析的な言及は非常に少ないと言わざるを得ません。
そしてこうした「いじめ自殺」の報道による社会的関心や反響は一時的なものに終わり、多くは永続きすることなく、忘れられていってしまうというのが現状ではないでしょうか。
【参考文献】
・『思春期の「うつ」がよくわかる本』(笠原麻里 監修,講談社)
・『こどものうつ ハンドブック』(奥山眞紀子 他著,診断と治療社)
・『子どもの自殺予防ガイドブック』(坂中順子 著,金剛出版)
思春期に増える子どもの自殺
子どもの自殺と言った場合、学童期では少ないのですが、思春期年代の子どもに関しては注意が必要になります。しかし、いくら注意をしていても、自殺の予測・予防は決して容易なことではありません。
児童精神科医のシンシア・R・フェファーによれば、子どもの自殺予防のためには、次のような危険因子の多元的な評価が重要であるとされています。
①背景情報(学年・年齢・性別など)
②自殺行為(自殺未遂)
③本人の精神病理
④対人関係の問題
⑤家庭内の不和
⑥家族内の精神病理
⑦致命的な自殺手段が容易に入手可能か
⑧近親者への曝露
前回のブログでも指摘しましたが、自殺を予防するためには、うつ病などの精神疾患を早期に見出し、きちんと治療することが先決になります。子どものうつ病は、見逃されることが多く、子どものうつ病をしっかりと見定める技量が、臨床家だけではなく、子どもに関わる大人にも求められてくることになります。
②については、リストカットなどの自傷行為のエスカレート、そして過剰服薬など、身体損傷による自殺未遂が含まれます。
⑤は、両親の不和や離婚による、養育環境の劣悪化などによる子どもへの支援体制の不足や欠如ということですが、家族による子どもへの虐待も含まれます。児童虐待を受けた子どもは自尊感情が健全に発達せず、そのことが思春期以降の自殺に結びつくことがあると言われています。
【参考文献】
・『小児救急医が診る思春期の子どもたち ゲートキーパーのその先に』(市川光太郎 編著,中山書店)
・『子どものこころの医学』(中村和彦 編著,金芳堂)
子どもにおける自殺概念の発達について
ピアジェの発達論によれば、9歳ごろまでは「具体的操作期」と呼ばれており、仮定や推測を用いて現実には起きていないことを考えたり、時間の非可逆性(二度と元には戻らないということ)を理解することは難しいと言われています。
子どもは、時間の非可逆性を理解していないため、死というものを本当には理解していないと言えます。子どもは経験を重ねる中で、死は生命の終わりであり、二度と元には戻らないということを理解していきます。
10歳を過ぎても、直ちに抽象的な思考を十分活用できるようになるわけではなく、たとえば、行き詰まったときに別の選択肢を選ぶとどのような結果が生じるのかということを推測し、柔軟な思考によって問題解決を行うことは難しいとされています。このような場合、衝動的な解決法を取ってしまうことも少なくありません。
自殺の概念が出現するのは、10歳頃であると言われており、14歳以下の子どもに自殺が少ないのは、選択肢として自殺という行為に思い至らないことや、仮に思い至ったとしてもそれを実行する能力に乏しいことと関係しているようです。
思春期の子どもは、自殺を考えた場合、飛び降りなどの確実に死に至る方法を考えることができます。
前回のブログでも触れたように、自殺は思春期の子どもの死亡原因の第二位を占めており、近親者に対して「死にたい」という本人の曝露があった場合には、口先だけでなく実行に移す危険性が高いと考え、子どもの言葉を真剣に受け止め、その気持ちに真剣に応じる姿勢が大切になってきます。
このような場合、親は、子どもの生・死に対して目をそらすことなく真正面から向き合うことが求められてくるのです。
【参考文献】
・『子どものこころの医学』(中村和彦 編著,金芳堂)
・『思春期の「うつ」がよくわかる本』(笠原麻里 監修,講談社)
・『子どものうつ ハンドブック』(奥山眞紀子 他著,診断と治療社)
◆不登校支援ブログ:うつ病と不登校・ひきこもり①~⑮
自らの意思によるすべての自己破壊行動は「自殺」です
深夜に、親の目を盗んで、ネットや書籍を通して自殺の手段・方法を子どもが調べようとすることがあります。薬物や刃物、ロープなど、自殺の手段・道具になりかねないものは子どもから遠ざけてしまうか、場合によっては隠したり処分したりして、絶対に自殺手段を与えないことが必要です。
しかし万が一、過剰服薬やリストカットなどで大怪我をしてしまった場合には、救急病院で手当を受ける必要があります。身体的なコンディションが整えば、心のケアをしていかねばなりませんが、救急現場に、こうした身体的損傷で搬入された場合、自殺念慮・企図がその子どもにあったのかどうかを知っておくことは、その後の対応においてきわめて重要になってきます。
自殺念慮の存在が認められる場合、具体的計画性、出現時期、持続性、「死にたい」という気持の強さ、などを、正確に知っておく必要があるのです。これらの要素のいずれか一つでも明らかに存在する際には、きわめてハイリスクな状態にあると認識した方がいいでしょう。
そして周囲の大人が子どもの「死にたいほど」のつらさを真正面からしっかりと受け止めてあげることが大切なのです。
【参考文献】
・『自傷・自殺のことがよくわかる本』(松本俊彦 監修,講談社)
・『思春期・青年期のうつ病治療と自殺予防』(D.A.ブレント 他著・高橋祥友 訳,医学書院)
子どもの自殺から目をそらさないことが大切です
身体的損傷のため医療機関に搬送された際、自殺念慮~自殺企図が子どもから感じられた場合には、自殺についての話題を避けたり、現実から目をそらすような対応をしてはならないと言われています。
自殺企図であるかどうかの判断基準としては、次の①~⑤が挙げられます。
①明確に自らの意思で行ったか否か
②自殺の意図の有無
③致死的な手段の選択の有無
④致死の予測の有無
⑤遺書などの客観的確認ができるものの有無
その子なりに理解した死を意図して行う自己破壊行動は、すべて自殺行動なのです。
ナーヴァスになるあまり、自殺の話題に触れないのがいいというわけではありません。むしろ、きちんと子どもの話に耳を傾けることが大切です。「死にたい」という自殺念慮のある子どもの自殺を防ぐためには、大人がその気持ちを受け止め、真剣に応じることが大切になってきます。
【参考文献】
・『子どものこころの医学』(中村和彦 編著,金芳堂)
・『子どものうつがわかる本』(下山晴彦 監修,主婦の友社)
・『改訂新版 家族・支援者のためのうつ・自殺予防マニュアル』(下園壮太 著,河出書房新社)
「TALKの原則」について
自殺企図が確認できた後の対応の仕方として、「TALKの原則」が知られています。
【TALKの原則】
①Tell:誠実な態度で話しかける
②Ask:自殺についてはっきりと尋ねる
③Listen:相手の訴えに傾聴する
④Keep safe:安全を確保する
①では、子どものことを本気で心配しているという思いを明確に伝えます。
②では、自殺について曖昧に済ませるのではなく、はっきりと尋ねることが大切です。真摯な態度で子どもの「死にたい」という気持ちについて質問することは、自殺を予防していくための第一歩となるのです。
③では、子どもの絶望的な気持ちに真剣に耳を傾けることが求められます。子どもの訴えに対しては、傾聴に徹することが大切です。感情的な発言をしたり、助言、批判、叱責、激励などをしないよう細心の注意が必要です。
④では、子どもを危険な状況にせず、生命の安全を確保するため、絶対に一人にしないことが大切です。
実は、自殺のリスクは一度だけで消滅してしまうとは限らず、繰り返し生じる可能性が高いことを念頭に、長期的にフォローアップを続けていくことを忘れてはならないのです。
【参考文献】
・『小児救急医が診る思春期の子どもたち ゲートキーパーのその先へ』(市川光太郎 編著,中山書店)
・『思春期・青年期のうつ病治療と自殺予防』(D.A.ブレント 他著・高橋祥友 訳,医学書院)
・『自傷・自殺のことがわかる本』(松本俊彦 監修,講談社)
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