うつ病と不登校・ひきこもり①〔うつ病の特徴について①〕
管理者用
児童・思春期のうつ病は不登校・ひきこもりを呈します
近年、児童・思春期のうつ病が、一般に認識されているよりもずっと多く存在するということが明らかになってきています。
うつ病の有病率は、児童期(12歳未満)で0.5~2.5%、青年期(12~17歳)で2.0~8.0%と言われており、明らかなうつ病の場合は、症状として不登校を呈し、重症化するとひきこもりにもなりえます。不登校・ひきこもりとは、きわめて密接な関係があると言えるのです。
「寝坊が続く」「好きなことに興味が持てなくなる」「食欲がなくなる」「お腹が痛い」など、子どものうつ病は、言葉ではなく体調と行動に顕著に現れますが、こうした理由もあってか、周囲の大人たち(親・教師)に気づかれにくく、見過ごされることが少なくなく、専門医の診察まで時間がかかることが多いようです。
【参考文献】
・『子どもの心の診療シリーズ 子どもの心の処方箋ガイド』(齊藤万比古 総編集,中山書店)
・『子どもの不安障害と抑うつ』(松本英夫/傳田健三 責任編集,中山書店)
うつ病は現在「抑うつ障害群」に分類されています
米国精神医学会が作成している『精神疾患の診断・統計マニュアル』「(DSM)は、世界標準とされており、最も影響力のある診断基準とされています。2013年に公開された第五版(DSM-5)が最新版となっています。
かつてDSM-Ⅳにおいては、病的な気分の変化のことを、「気分障害」と言い、その中でも代表的なものが「うつ病」であるとされていましたが、2013年のDSM-5においては「気分障害」という概念自体が廃止され、「うつ病」は「抑うつ障害群」に分類されています。
ここでDSM-5における「うつ病」と「双極性障害」に関する分類上のことに簡単に触れておきたいと思います。
DSM-5において、うつ病は「大うつ病」として「抑うつ障害群」に下位分類されており、双極性障害は、「双極性障害群および関連障害群」に下位分類されています。つまり、DSM-5では、うつ病と双極性障害が別の括りになり、分類の仕方が大きく変わったのです。
ところでDSMにおける「大うつ病」とは、いわゆる「うつ病」と一般的に称されるものですが、「大うつ病」の「大」は英語のMajorを日本語に訳したものです。したがって、この場合の「大」は症状の重篤さを表すものではありません。
通常「うつ病」という場合は、DSMにおける「大うつ病」を指すものであるとご理解ください。
【参考文献】
・『DSM-5セレクションズ 抑うつ障害群』(高橋三郎 監訳,医学書院)
・『学校関係者のためのDSM-5』(高橋祥友 監訳,医学書院)
うつ病の自殺率は15%に達しています
うつ病の基本症状は、「気分が落ち込む、気が滅入る、物悲しい」といった気分であり、こうした気分のことを「抑うつ気分」と言います。そして、うつ病の場合は、あらゆることへの関心がなくなり、何をするのも億劫になります。
知的活動能力が大幅に減退し、児童・思春期の場合は、勉強や部活、趣味、友人関係、遊びなどへの興味もなくなり、最悪の場合は何も手につかなくなり、ひきこもります。
知的活動能力の減退・喪失のほか、「睡眠障害、全身倦怠感、食欲減退、頭痛、腹痛」などの身体症状も顕著になります。
また、抑うつ気分が強くなると、自殺念慮(希死念慮)や自殺企図に発展することが珍しくなく、自殺率は15%ときわめて高いため、十分な注意が必要になります。
うつ病と自殺について詳しくは、下記のブログをご参照ください。
【参考文献】
・『子どものうつ病』(長尾圭造 著,明石書店)
・『子どもの自殺予防ガイドブック』(坂中順子 著,金剛出版)
◆不登校支援ブログ:うつ病と不登校・ひきこもり①~⑮
ただの「気分の落ち込み」ではありません
どんな人でも、気分が落ち込むということはありますが、うつ病における気分の落ち込みは、その程度が全く異なるものであると言えます。
嫌なことや悲しいことがあれば、誰でも気分が落ち込むものですが、好きなことをしたり、友だちと話をしたり、買い物をしたり、スポーツをしたりして、気分を紛らすことはできます。そして、多くの場合は数日くらいで徐々に立ち直っていくものです。
ところが、うつ病における抑うつ気分は長期間持続し、好きなことをする意欲さえ全く起きなくなります。気分転換をする気にすらなれず、日常生活にも大きな支障を来たすことになっていくのです。
そしてうつ病の場合、治療をしないと半年から1年間程度は慢性的に経過することになり、適切な治療を受けなければ、症状が完全なくなることも多く、回復して健康に過ごせるようになる人も多いとされていますが、再発することも決して珍しいことではありません。
うつ病は再発しやすいことが特徴の一つであるとされており、無理に社会復帰したりすると、再発の誘因になることがあるので注意が必要です。
児童・思春期の場合には、うつ病になって不登校になっているときに、まだ完全に直りきっていない状態であるにも関わらず、無理をして登校をしてみたり、部活に出てみたり、学校行事(遠足・修学旅行)に参加してみたりすることが、かえってうつ病の再発を引き起こしかねないということです。このようにして再発を繰り返した場合には、抑うつ状態の期間が結果的に長くなっていきます。
【参考文献】
・『思春期の「うつ」がよくわかる本』(笠原麻里 監修,講談社)
うつ病の有病率は高いのが現状です
うつ病の生涯有病率は、10~15%で、割合だけをみれば6人に1人がかかる病気で、女性の方が男性の約2倍かかりやすいということが分かっています。年代別には10代後半~壮年期に最も多く見られます。
厚生労働省の調査では、うつ病をはじめとする気分障害の患者数が1999年には44万人だったのに対し、2011年には96万人以上と、倍以上に膨れ上がっていることが明らかになっています。この中には、児童・思春期の患者も含まれているため、うつ病の子どもは増加こそすれ、減少していることはまずないと考えられます。
なお国際連合の世界保健機構(WHO)は、2020年にはうつ病が世界で2番目に多い病気になるだろうと予想しています。
1970年代から80年代にかけて、欧米を中心に児童・思春期のうつ病に関する研究が進み、少なからぬ数に上ることが分かってきました。
【参考文献】
・『子どものうつがわかる本』(下山晴彦 監修,主婦の友社)
見過ごされやすい子どものうつ病
つい最近まで、児童・思春期の子どもには「うつ病」はないとされていたわけですが、そのような誤解・無理解のために、現実にうつ病で苦しむ子どもたちは、「わがまま」「怠け」「やる気がない」などと周囲の大人たちから非難されることが当たり前だったのです。
また2004年の北海道大学病院精神科グループが札幌、千葉、岩見沢各市の小中学校の協力を得て実施した調査によれば、小学生の7.8%(約12人に1人)、中学生の22.8%(約4人に1人)に、「うつ傾向」があることが分かりました。平均値では、小中学生全体の約13%が「うつ傾向」であったということになります。
子どもの「うつ」のサイン、つまり「うつ傾向」を見逃さないことが、うつ病の発症や悪化を防ぐための一番大切なことだと言えます。
うつ病の悪化によって不登校・ひきこもりが常態化するというだけではなく、自殺にまで発展してしまう危険性があるので、家族は子どもの異変に気づき、医療機関への早めの受診を促す必要があります。
また小中学校の児童・生徒にうつ病が存在するということを、学校関係者の先生方にも、改めて強くご認識いただきたいと思います。
【参考文献】
・『こどもうつ ハンドブック』(奥山眞紀子 他著,診断と治療社)
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